精神保健福祉士として働くなかで、「いじめ」という深刻な問題に直面している人は少なくありません。
支援職であるがゆえに、周囲からの理不尽な扱いや、内部の人間関係によるストレスを抱えやすい職場環境が、時にいじめという形で表面化することがあります。
この記事では、そんなつらい状況に置かれている方々のために、精神保健福祉士という職種特有のいじめの実態と背景、そして実践的な対処方法を具体的に解説していきます。
このページでわかること
- 精神保健福祉士の職場で発生しやすいいじめの背景と構造
- 実際に起こりうるいじめの事例とその傾向
- いじめに対して取るべき法的・組織的な対処方法
- メンタルヘルスを守るためのセルフケアと支援機関の活用法
- 「支援者が支援を求める」ことの難しさとその克服方法
精神保健福祉士いじめの現状と背景

精神保健福祉士が直面するいじめ問題は、個人の資質や感情の問題に還元できるものではありません。むしろ職種特有の構造や文化、業務環境が背景にあることが多く、現場では「いじめ」と認識されにくいまま深刻化するケースもあります。
支援職であるがゆえに、「自分は助ける側」という意識が強く働き、自らのつらさを見過ごしたり、表現できなかったりする傾向もいじめの被害を長引かせる要因の一つです。
福祉職特有の人間関係とストレス構造
精神保健福祉士の仕事は、感情労働の代表とも言える役割です。利用者や家族との関わりの中で、常に「冷静」で「共感的」でいることが求められます。その反面、同僚や上司との関係においてストレスの捌け口がなくなることで、内向的な人間関係トラブルを生みやすくなります。
とくに以下のようなストレス要因が重なり合うことで、いじめが発生しやすくなります。
- 成果が見えにくく評価されにくい
↳支援の成果は数値化されにくく、評価が主観に左右されがち - 過剰な責任感と自己犠牲の文化
↳「自分が頑張らないと」という思いが自他へのプレッシャーに - 管理職の育成不足や現場の疲弊
↳人材不足によってリーダーが機能せず、秩序が乱れやすい
これらのストレスは蓄積すると、職場の空気を悪化させ、いじめという形で他者に向けられる場合があります。
よくあるいじめの具体例と特徴
精神保健福祉士の現場で報告されるいじめは、身体的な暴力ではなく、心理的圧力を伴う行為が大半です。表立ってわかりにくいため、見過ごされがちですが、当事者にとっては非常に深刻なダメージを伴います。
代表的ないじめ行為には、次のようなものがあります。
- 業務情報を共有しない
↳孤立化を目的に、必要な情報を意図的に伝えない - 失敗の責任を一方的に負わせる
↳ミスを押しつけられ、立場を悪くされる - チーム内での無視や排除
↳日常的なやりとりから外され、心理的に追い詰められる - 指導を装った過度な叱責や圧力
↳「指導」として怒鳴る、否定するなどのパワハラ的対応
これらの行為は繰り返されることで、「自分が悪いのではないか」と自責に追い込まれるきっかけとなります。
いじめが起きやすい職場の特徴
精神保健福祉士の職場環境には、いじめが発生しやすい構造が潜んでいることがあります。特に組織運営がうまく機能していない現場では、その傾向が顕著です。
下記は、いじめが発生しやすい職場の具体的な特徴を表で整理したものです。
職場の特徴 | 問題点 |
---|---|
上司の統率力不足 | 秩序が崩れ、好き勝手な行動が横行 |
評価基準が不明瞭 | 私情が評価に反映され、不公平感が蔓延 |
相談体制が機能していない | 問題が表面化せず、被害者が孤立 |
閉鎖的な組織文化 | 異論を言いにくく、改善の声が届かない |
いじめを防ぐには、こうした職場の構造的な問題を見直す必要があります。そして、働く側もそれらを冷静に観察し、自身の立ち位置を把握することが重要です。

精神保健福祉士がとるべき具体的な対処法

いじめの被害を受けたとき、「何をすべきか分からない」と感じるのは当然のことです。
特に精神保健福祉士は、自分の感情や負担を後回しにする傾向が強く、問題を見過ごしてしまいやすい職業です。しかし、被害を受けたままにしておくことは、自身の健康やキャリアに深刻な影響を及ぼす可能性があります。
証拠の記録と保全のすすめ
いじめへの対応において、最も重要なのが「記録を残すこと」です。記録は、後に第三者へ相談する際や、法的措置を検討する場面で、事実を裏付ける決定的な証拠となります。
- 日時・場所・発言・行動を具体的に記載する
↳「いつ」「どこで」「誰が」「何をしたか」を明確にする - 感情的な記述を避け、客観的にまとめる
↳事実と感想を分けて記録する - 紙だけでなく、デジタルデータも活用する
↳スマホのメモアプリやクラウド保存でバックアップ
加えて、音声やメール、チャットなどのやりとりも可能な限り保存しておくと、信ぴょう性の高い証拠となります。
社内相談窓口・人事部へのアプローチ
いじめの初期対応として、社内の正式な相談機関を利用するのは大切なステップです。企業や施設には、労働者からの相談を受けるための窓口が設置されている場合があります。
- 直属の上司または信頼できる先輩
↳相談がしやすく、現場への介入もしやすい - 人事部門やハラスメント対応窓口
↳制度としての解決や配置転換を視野に入れられる - 産業カウンセラーや社内メンタルヘルス担当
↳心理面のフォローと同時に事実確認の支援が可能
いずれにせよ、感情的に訴えるのではなく、記録をもとに冷静に事実を伝えることが重要です。
外部機関を活用する(労基署・弁護士・NPO)
社内で問題が解決しない、もしくは相談できる環境にない場合は、外部機関を頼るという選択肢もあります。外部の力を借りることで、状況が動き出すことも多くあります。
以下のような外部機関が相談先として考えられます。
機関名 | 対応内容 |
---|---|
労働基準監督署 | 労働条件の違反やパワハラの通報対応 |
弁護士(労働問題専門) | 法的措置の検討、損害賠償請求など |
NPO法人・労働相談センター | 無料相談、交渉の仲介、転職支援 |
特に労働問題に強い弁護士の存在は、事態を大きく変えるきっかけになります。

精神的負担を軽減するセルフケアと支援機関
いじめにあった場合、最も重要なのは「心のケア」です。心理的ストレスを放置すると、うつ症状や燃え尽き症候群へとつながるおそれがあります。まずは自分の状態に気づき、セルフケアを始めましょう。
- 睡眠・食事・休息のバランスを整える
↳身体を整えることで、気持ちにも余裕が生まれる - 信頼できる人に話す機会をつくる
↳吐き出すことで感情の整理が進む - 一人で抱え込まないと意識する
↳「支援者でも支援を受けていい」と考える
加えて、外部の支援機関も積極的に利用しましょう。EAP(従業員支援プログラム)や、地域のNPO法人などでは、無料カウンセリングや心理的支援が受けられる場合もあります。
心身に不調を感じたら、医療機関で診断書をもらうことも検討してください。
精神保健福祉士が直面したいじめ・ハラスメント事例
精神保健福祉士が職場で直面するいじめやハラスメントは、個人の資質や人間関係のトラブルにとどまらず、組織の構造や文化に根ざした深刻な課題です。以下に、実際に報道された事例を紹介し、問題の実態と背景を明らかにします。
公立病院でのハラスメント訴えによる免職事件

2019年、佐賀県の公立病院「伊万里有田共立病院」で働く精神保健福祉士の男性が、職場内のパワハラ対応を求めたことをきっかけに免職されるという事件が起こりました。
男性は上司によるハラスメントを相談したにもかかわらず、病院側は適切に対応せず、逆に処分を下したとされています。最終的には和解が成立しましたが、問題提起をした側が不利益を被る構造が露呈しました。
出典:毎日新聞「公立病院で何が ハラスメント対応求めた職員を免職」
障害者施設での利用者からのセクハラ事例
ある就労継続支援B型事業所では、統合失調症の利用者が女性職員に対し継続的にセクシャルハラスメント行為を行っていました。
職員は精神疾患のある相手に強く注意することをためらい、組織としての対応も曖昧だったため、問題が長期化。職員の精神的負担は大きく、結果的に離職に至ったとされています。
参考リンク:みんなの事例「精神疾患のある方からのセクハラ」
精神保健福祉士による強制入院事件(Y問題)
1969年、川崎市で19歳の男性が精神保健福祉士の判断によって、医師の診断を経ずに強制的に精神病院へ入院させられた事件が発生しました。
この「Y問題」は、精神医療における職権乱用の象徴として批判され、後の倫理綱領制定のきっかけにもなった歴史的事件です。

まとめ|いじめ問題に立ち向かうあなたへ
この記事を通じて、精神保健福祉士が直面する職場のいじめ問題の実態と背景、そしてその対処方法について解説してきました。支援者であるあなた自身が、支援を求めることにためらいを感じたり、「自分さえ我慢すれば」と思ってしまったりするのは自然な感情です。しかし、あなたの心身の健康と尊厳は、何よりも大切にされるべきものです。
いじめが起こる背景には、福祉職特有のストレス構造や組織文化の問題があることが多く、個人の資質や能力のせいではありません。記録を取り、適切な窓口に相談し、必要であれば外部機関の力も借りることが、自分を守る大切な手段になります。
心が限界に近いと感じたら、転職や休職を選ぶことも、決して逃げではなく前向きな選択です。